来 歴

見知らぬ恋人


ここから私の道は曲ると思つた日
私はあなたに出あつたのだ
あなたが鳶色の思想を額に垂らして
私の視野から出て行こうとしたとき
世界中の虜囚の心をほとんど理解できたようだ

あなたは自信にみちた英雄の気どりを見せて行く
だからふりむかないあなたの後を追いたくなる
あなたは知恵のある者のしるしのように行く
だからぐんぐん離れるあなたの声を知りたくなる
その微笑をかくす
未知なるものの影を
大いなる暗黒をときあかしたいと思う
あなたに関して考えると
すべてが眩しい恋愛の感情に似通つてしまう

かつて知恵と力はあなたを支配し
あなたは黄金時代を闊歩することがあつた
いま知恵と力はあなたを処罰し
あなたの道を文明の墓地まで歩かせる気だ
あなたがになう光栄はすでに幻影にすぎないか
よこしまな太陽は
背後からあなたの罪をさらしものにする
都会の谷間は
そういう惨劇にふしぎにふさわしいようだ

あなたの正体をあばき出す一発の銃声もきかないのに
その前に私は盲いるだろう
辛うじて後をつけているのに
風がうずまきながら吹きぬけて行く方には
意地の悪い運命が待ちぶせているのがよくわかる
私が数歩も行かぬうちに今日の終り
世界はあのようにみるみるかげつてくるのだ

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